※このお話を読んだ管理人が魅了されて、作者様に連絡を取り掲載させて頂きました。
※やはり鬱です。最高です。羨ましい。



珍しく仕事のない完全オフの朝、いつもより早めに目が覚めた。

起きなきゃいけない日はなかなかすっきり起きられないのに、
特に起きなくてもいい時に限ってばっちり目が覚める。よくあることだ。

目を覚ました以上、いつまでもベッドの中でごろごろしてるのは好きじゃない。
勢いをつけて起き上がると、カーテンを一気に引き開ける。


(おー… すごい! カンペキに晴れてるぞ!)

昨日は中途半端な天気で、野外ロケの仕事の間もいまひとつすっきりしなかった。
その自分の鬱憤を晴らすみたいに、きょうの空は澄み渡っている。
どこまでも抜けていくような透明なブルー。
ずいぶん見ていない沖縄の海のことを、ふと思った。
あんまりきれいだったから、貴音にも教えてあげたくなる。

「おはよ、貴音。今日はいい天気だぞ」

当然みたいに返事はないけど、いつものことなので気にしない。
今日はいい日になりそうな、そんな気がする。




さて、朝ごはんだ。事務所のみんなの話を聞いてると、朝ごはんは食べない、
って子も結構いるみたいだけど、自分には絶対マネできないと思う。
まずはなにか食べてエネルギーを補給しなくちゃ、自分の一日は始まらない。

タイミング的に残ってる卵をそろそろ食べちゃわないと。
トーストを焼いて、卵はゆで卵… いや、目玉焼きにして、
それにちょっと残ってた野菜でサラダっぽいものを…
というプランを立てたところで唐突に"卵かけごはん"というイメージが頭をよぎる。
とたんに頭の中が完全にそいつに占拠されてしまい、
おぼろげなトーストと目玉焼きとサラダが裸足で逃げ出していった。

「最近パンばっかりだったから、たまにはご飯もいいかもなー」

思わずひとりごとみたいに呟いてしまって可笑しくなる。
誰に言い訳する必要もないのに。やっぱり自分は日本人だな。
自分のつぶやきをしっかり聞いていたらしい貴音が、
テーブルのところで微笑んでるのが見えた。




昨晩炊いたご飯を茶碗によそう。これが炊き立てだったらなぁ、
と思うとちょっと残念だけど、ないものねだりをしてもしょうがない。
それに温めなおせば十分おいしくなる。電子レンジってやつは本当に偉大だ。

さすがに卵かけごはんだけでは物足りないのでインスタントのお味噌汁を作る。
二品だとちょっと食卓が寂しすぎるので、申し訳程度に海苔とお漬物も出してみた。
まあ、今日はオフなんだし、これくらいあれば十分だろう。
では、ようやくおまちかねの朝ごはんだ。いただきます!


…やっぱり自分の思いつきは正解だった。
こんなに晴れた気持ちのいい朝に食べる卵かけごはんは最高においしい。
アイドルに似合いの朝ごはんか、といわれると確かにちょっと首を傾げちゃうけど、
オフの自分はただの我那覇響だから、誰に気兼ねする必要もない、と思う。




「自分ね、ようやく、新しい仕事も慣れてきたし」

返事は特に期待しないで貴音に話しかける。

以前二人でやっていたラジオは自分ひとりの冠番組になった。
しゃべるのは嫌いじゃないから大丈夫だろうと軽く考えていたら、
いざやってみると慣れないことだらけで、最初のうちはまあひどいものだった。
このところようやく、番組のテンポみたいなものがわかってきて
聞いたところじゃそれなりに好評になってきている、らしい。


野外ロケとか、動物関係のお仕事が多いのは相変わらずだけど、
驚いたことにグルメレポート系も最近入るようになってきた。
貴音といっしょにいろいろ食べ歩いていたのが活きているのかもしれない。

美味しいものが仕事で食べられるなんて単純にうれしいけれど、
ごくたまに回ってくるラーメン関係のレポートだけはお断りしている。
それは、貴音の仕事だから。


事務所のみんなにも、最近の自分は前みたいにいきいきしてきた、と言われる。
自分ではあまりそんな自覚がないけれど、
みんなそう言うってことは、そうなのかもしれない。





「結構ね、笑えるようにもなってきた」


ちょっとためらいがあったけど、気がついたら口に出していた。
今言ったことは嘘じゃない。胸が、心がすごく痛いけど、
自分が確かに、ちょっとだけでも前に進んだのは、嘘じゃない。


あれからしばらくの間は、笑顔が硬い、って言われたことが何度もあった。
笑わなきゃ、とどこかで思ってる限り、人は決して自然には笑えないんだって、
そんな単純なことに気づくまでにすら、けっこう時間がかかったけど。

最近では、自分も、笑ってもいいんだ、という気持ちになってきてる。

そのことをどこか寂しいと思うのもきっと間違いじゃないし、
笑ってる自分が心から楽しいと思ってるかどうかは、
自分でも、まだちょっとわからないけれど。



「いいこと、だよね、きっと」



写真立ての中の貴音は、いつもと変わらない笑顔で自分を見てる。





笑えるって言ったそばから泣いてるようじゃ、嘘つきになってしまうから。

自分も、せいいっぱいの笑顔で、微笑む貴音を、まっすぐに見る。






おしまい。